All About Jazz 2013

2013年5月16日~6月27日 全4回(記録)

ジャズ音楽が満喫できるジャズバーで開催するジャズ入門講座

ドリンクを片手に講師のお話を聞きながら、 大きなスピーカーの前でゆったりとジャズの世界を楽しむ極上の90分間

 

【講師】 柴田 浩一さん
横濱JAZZプロムナード、プロデューサー。
現在、NHK横浜放送局(81.9MHz)にて、毎週水曜日のジャズ番組「FMサウンド☆クルーズ/よこはま発JAZZクルージング」を担当。2011年、NHK関東甲信越地域放送文化賞を受賞。著書「デューク・エリントン」(愛育社)。

 

◆第1回 「ジャズの誕生」 5月16日

ongen-list
音源リスト(講座で聴いた曲)
リトルジョン

薄暗くアンニュイな雰囲気のジャズバー「リトルジョン」の椅子を総動員してジャズ講座第一回は始まりました。

まったくのジャズ初心者から、自らジャズステージに立つセミプロまで多彩な顔ぶれの受講者が思い思いのドリンクを片手に、柴田さんの絶妙なトークと20世紀初頭の珍しい秘蔵音源に耳を傾けました。

あらかじめ柴田さんと打ち合わせて作成しておいた古いジャケット写真や人物画像データをプレゼンするAAJCのスタッフ、柴田さんの解説に合わせて音源を再生するリトルジョン店主の茂呂さん、の3者の絶妙なコンビネーション。 

 

この日準備された音源は、10曲。

珍しい売り子の声の音源(M1)から始まりました。

売り子の口上にメロディーがつき歌の様になる現象は日本にありますが、この音源少し「ブルースの香り」がしているところがさすがです。

「ブルースの女帝」と呼ばれるベッシー・スミス(M2)、フォーク・ブルースのビッグ・ビル・ブルーンジー(M3)と続きます。

この日の秘蔵音源の極めつけは、M4。

 ゴスペルの源流に当たるニグロ・スピリチャルの音源で、1920年代の教会での録音版です。その迫力に、受講生一同圧倒されました。

 

黒人奴隷の日々のつぶやきや恨み節の様な形で始まったブルースですが、M6・M7では一転して完成度の高い西洋音楽の世界が紹介されます。

19世紀ヨーロッパ音楽の影響を受けた黒人音楽は、ラグタイム(M8・M9)として発展して行きます。

そして、それらの全てがニュー・オリンズで出会い、「ニューオリンズ・ジャズ」となったところで、一回目講座は終了です。

M10の曲名に、Jassと記載されているのは、誤植ではありません。

ニューオリンズ・ジャズの時代はJass、シカゴからはあえて区別されてJazzとなっとのことです。

和やかな雰囲気の中で終了した講義の後も、多くの受講者が会場に残り、ドリンクをおかわりしながら、講師に質問を投げかけたり、受講者同士が語り合うなど、講座の余韻がいつまでもリトルジョンの中を満たしていました。

◆第2回 「ニューヨークで華開くスイング時代」 5月30日

第1回目は、黒人霊歌・ブルースとラグタイムがニューオリンズで出会う「ジャズの誕生」が、テーマでした。

 第2回目では、ニューオリンズからミシシッピ川を遡ったシカゴへ、そして大都会ニューヨークに舞台が移ります。

この日準備された音源は全12曲、タイトルは「ニューヨークで華開くスイング時代」です。

第2回音源リスト
第2回音源リスト

 以下、二回目の秘蔵音源の中からいくつかご紹介します。(音源リスト参照)

 

M4:ベニー・グッドマン・ボーイズ

ベニー・グッドマンが19才、グレン・ミラーが24才等々、若かりしボーイズの演奏です。

但し、内容的にはまだ完全な「デキシー音楽」

私たちの知っている彼らのスタイルとは全く別の世界、その「珍しさ」が印象に残る音源でした。

 

 

 

M5:ルイ・アームストロング&ヒズ・ホット・ファイブ

ウエスト・エンド・ブルース」

柴田さん曰く、「個人的にはこの曲でジャズが完成したと思う!」とのこと。

確かに、ジャズの構成力・楽しさ・聴かせどころ等が満載の曲です。

スキャットも入るこの歴史的名曲に受講生一同も納得です。

この1928年版、youtubeにもあったのでご参考まで。

http://www.youtube.com/watch?v=W232OsTAMo8

 

M8からM12まで、ニューヨークでのビッグバンド演奏の世界に入って行きます。

「白人は、あえてジャズとは呼ばず、スイングと云う言葉を多く用いた」

「ベニー・グッドマンのスイングは、最初からダンス音楽として人々に受けいられた訳ではなかった。地方巡業は結構厳しい大変なツアーとなった。」

「だが、1935年ロサンジェルス巡業先で人々から圧倒的な支持を受け、そのことをきっかけにして、一晩でスイングが全米に広まった」

「ニューディール政策で家庭にラジオが普及していたことが、スイングの広がりに貢献した」等々。

 

この日の音源のハイライトは、M11とM12。

「ステアリン・アップル」この同じ曲を、フレッチャー・ヘンダーソンとベニー・グッドマンの各オーケストラで聴き比べる試みです。

 

M12の1939年版、youtubeにもあったのでご参考まで。

フレッチャー・ヘンダーソンも、ピアニストとして参加しています。

ベニー・グッドマンによる<演出の技>が確立、<スイングの楽しさ>が見事華開いたところで、二回目講座は修了です。

http://www.youtube.com/watch?v=Do9mNnmSy10

 

リスト最後の「The best of Benny Goodman」について

このライナーノーツ、何と柴田さん執筆によるものだそうです。(若)

http://www.billboard-japan.com/goods/detail/255009

◆第3回「強いアメリカの時代、華麗なるスイング・エイジは多くのスターを生んだ」                                                                                                           6月13日

  New OrleansからChicago移り完成したNew Orleans JazzはいよいよNYに移って洗練され華やかになります。

 Benny Goodmanのラジオ番組Let’s DanceがSwingを誕生させますが、まず彼の別のラジオ番組“Swing School”のオープニングナレーションつきのLet’s Dance(M1)を楽しんでください。 Bennyのクラリネットに変わり次はトロンボーンの名手Tommy Dorseyの“センチになって”(M2)です。

 次の曲は以前クレージーキャッツが出演したJR東海のCMでバックに流れましたがBegin the Begin(M3)はArty Shaw & his Orchestraのテーマソングです。 Swing時代の一番最後に出てくるのがアレンジの名手Glenn Miller ですが、Glenn Miller & his OrchestraのテーマソングMoon Light Serenade(M4)

 

そのスイング全盛のハイライトとも云えるのが、Benny GoodmanのSing Sing Sing(M5)。これは1938年カーネギー・ホールでのライブ録音です。 柴田さん曰く、「マイク一本で録音されたこの演奏は、スイングの頂点に立つ!」 13:03の長い演奏ですが、この曲の迫力には受講生も納得。 講座修了後も再度リクエストが、かかった程です。 この演奏YouTubeにもあったので、参考まで。

http://www.youtube.com/watch?v=0NigiwMtWE0

 

次のハイライトは、テナーサックス対決です。

M6のコールマン・ホーキンスとM7のレスター・ヤングの聴き比べ。

「この二人のスタイルの違いは、コルトレーンやソニーロリンズやスタンゲッツ等のその後のスタープレイヤーの演奏スタイルに影響を与えた」との解説。

 

M8のデューク・エリントン。

「この楽団からは、スターがキラ星の如く現れている」

「ダンスホールが大きいので、スイングバンドも人海戦術で広がったが、個性のないバンドは淘汰されて行った」

「個性が失われること、そのことがスイングの衰退に繋がって行く」

 

M1からM8が「スイング全盛時代」であるのに対し、M9とM10では「スイングの終わり方」が語られて三回目の講座は終了です。(若)

little john 入口
Little John 入口

◆ 第4回 「ビ・バップからクールまで」 6月27日

 前回は、Swingまで話をしました。

 隆盛を迎えたSwingも専属歌手がメインになるという逆転現象、ダンス音楽以外をやりたいという意欲、ビッグバンドの没個性へのアンチテーゼとしてのコンボスタイルへの志向などが芽生えてきます。

 まずは違いを引き立たせるためにスウィングスタイルのグレンミラーM1)とビバップへ向かう途中のビリーエクスタイン(M2)を比較して下さい。エクスタインは自分の歌を最高に引き立たせるためガレスピー、マイルス、デクスターゴードン、アートブレーキー、サラボーンその他強力なプレーヤを控えたバンドを作ります。このバンドはビバップの動きが始まる上での非常に重要な存在です。

 

 白人ビッグ・バンドの「スイング」に陰りが出て来る中、チャーリーパーカーとガレスピーは、NYのミントンズプレイハウスを拠点に、今迄とは全く違うジャズ「ビ・バップ」を展開していきます。

刺激的なアドリブ、2拍と4拍にアクセントを置いたオフビート。

柴田氏曰く「中でもビ・バップに一番相応しいのは、この曲です。」

M4のソルト・ピーナツ、YouTubeにもあったので参考まで。

http://www.youtube.com/watch?v=_RS01-poV84

 

そこに参加して来るのが、マイルス・デヴィスとバド・パウエル。

初期のマイルス・デヴィスは、「トランペットの高音を大音量で出せず、自分らしい演奏に至るまで随分苦労していた。」

Bud & Miles
Bud & Miles

バド・パウエル、「その後のピアノトリオの基礎を作り上げた人。」

「ビル・エバンス等も、バド・パウエルの影響を受けている。」

早弾きの代表であるM8のインディアナ、YouTubeにもあったので参考まで。

http://www.youtube.com/watch?v=CcT3ft1Cr8U

 

 

 

 

 さて、刺激的なビ・バップが勢いを持つと、今度はその反動でアンサンブル重視のジャズが流行することになります。

 M10からM12は、白人バンドにおける「クール」の展開、M13からM14はマイルス・デイビスによる「クール」の展開となります。

 自分らしさを確立しようとしていたマイルス・デイビスが、アンサンブル重視に着目したことで、その後のジャズはまた大きく変わっていくことになります。

Nonetと云うのは、9重層楽団。

 

 マイルスは、ジョン・ルイス、シェリー・マリガン、ギル・エバンスの三人に編曲を依頼し、完成度の高いアンサンブル重視のジャズを作り上げて行きます。 

 

 この様に、「ジャズの歴史は、一口で云って黒人と白人の闘いだった。」

「その闘いは、コルトレーンが神格化される1960年代中旬まで続いた。」

 

 今回の講座は、これで終了です。

 最後に、参加者全員による自己紹介タイム。4回すべて参加した方、仕事等の都合で欠席した回があった方など様々でしたが、それぞれの方がジャズや次回講座開催への期待を語ってくださいました。

 20代~70代の年齢も職業も異なる方々が座を共にしジャズに耳を傾けたリトルジョンでのひととき。皆様と再会を誓って、解散しました。(若)